コロナ禍で、誰もが全世界の行く末を不安に思っていた時のことを皆さん覚えているでしょうか。これから先、音楽ライブには参加できないのではないか、日本から一生出られなくなるのではないか。先行き不透明で、心細い毎日を癒してくれたのは、台湾の友達とのスケッチを通じた交流でした。いつか、会えることを信じて、その日のために、かたことの中国語会話も勉強してきました。ついにやってきた台湾、旅行中は、それぞれの都市で、初対面の友達に会うたびに、涙腺がついゆるみそうになるのを耐えていました。それぞれの街で心温まる熱烈な歓迎を受けたこの旅は、自分の人生の中でも、そう何度とはないであろう、心震える16日間でした。
台中の方々は、私たちのグループ「Google街景之友」の中でもリーダー的な存在で、活動的なメンバーが揃っています。Hankさん、林乃竹さんらに、車を出していただき、台中から彰化県の鹿港(ルーガン)という古い街までスケッチツアーに連れて行ってもらいました。鹿港の街に到着すると、台中で水彩画の先生として活躍されている楊上奇さんの先導のもとスケッチツアーが始まりました。街の数カ所のポイントを巡り、描いては移動、描いては移動を繰り返し、ひっきりなしに笑いながら会話をしていて、この旅に一緒に連れてきた中学2年生の娘も僕も、台湾の古都・鹿港の光景と、なにより個性的な台中の皆さんの迫力に圧倒され「まるでテーマパークのアトラクションに参加しているようだ」と、笑いながらついていきました。また、高雄の小風さんは、高雄市内や近隣の屏東市のスケッチ仲間を集めて「大晦日スケッチパーティー」を開いてくれました。数週間も前から景色のいい港の見えるカフェを予約して、2023年の「兔年(=卯年)」をテーマにしたスケッチをそれぞれ描いて、くじを引き、交換をする、というような、心温まる手作りのイベントを催してくれました。


「本気の遊び心」に触れたことも思い出のひとつです。僕は「璃寛(りかん)」というペンネームでスケッチをしていて、台湾の皆さんから「璃寛桑(りかんさん、「桑」は日本語の「さん」のこと)」の愛称で呼ばれています。ちなみに僕の娘がデザインした「りかんさん」のキャラクターは、オレンジの帽子、丸眼鏡、青いボーダーのシャツを着ており、僕は軍手で作った「りかんさん」のパペットをいつも持ち歩いて、その土地を訪問した証として、パペットと一緒に写真を撮っています。そして旅の終盤、「璃寛桑がリアルで台湾にやってくる!」ということで、先に会った台中や高雄など台湾各地の街景之友のコアメンバーが台北で一同に会するスケッチイベントを開催してくれました。そこでは、秘密裡に、ドレスコードとして、りかんさんのキャラクターに合わせて「全員、ボーダーで来るように」という計画が進められていたのです。行ってみたら30人ものスケッチの猛者が、みんなボーダー柄のシャツを着て絵を描く、という光景が可笑しくも感動的で、僕は胸いっぱいになりました。

そしてなにより嬉しかったのは、僕にとっての「あこがれの存在」にリアルでお会いできたことです。台北では、B6速寫男ことMarsHuangさんらが、基隆市の超カラフルな映えスポット「基隆正濱漁港」に連れて行ってくださいました。この港は、ちょうど1年前にも、Googleストリートビューを使って街景之友のメンバーと一緒に描いた、思い出深い特別な場所です。「基隆正濱漁港」を真正面に臨むカフェの2階で、ランチをとりながら窓から見るリアルの光景は、まさに額縁で切り取られたようにも見えます。Facebookの中にいる僕にとっての「アイドル」的な存在、Vickyさん、BenLiさん、Nicoさん、B6速寫男さんと一緒に、Googleストリートビュー越しにスケッチをしてきた約2年半を思い浮かべながら、それは僕にとっての至福の時間、40代最後の年に感じた、夢の中にいるような、背中に羽根が生えたような、いろいろな思いが交錯した16日間でした。


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さて、台湾の方々との初対面と併せて、僕が楽しみにしていたこと、それはGoogleストリートビューを見ながら描いたスケッチブックを持って、その実際の場所を訪れてみる、という試みです。そして既にスケッチを描いた街々を初めて訪問した時、あることに気づきました。それは、初めて訪問した場所であるにもかかわらず、通過しただけで、描いた場所が、瞬時にわかるということです。

Googleストリートビューを見ながら絵を描く場合、万年筆による線画から、すべての着色を終えるまで、平均すると1~2時間程度、パソコン越しにその風景を細かく凝視し観察して、一旦自分の中で咀嚼し、自分のテイストでアウトプットすることになります。
例えば、テレビの旅番組やドラマを見ているとき、自分の地元や、通勤通学の街など、日常見慣れた生活の一部がほんの一瞬テレビに映っただけで、「あ、三軒茶屋だ」「あ、これ栃木市だ」と、気づくことがあると思います。テレビの場合は、まず「リアルの現場体験」があって、それを「メディア越しに体験」します。
Googleスケッチをきっかけとした旅の場合は、ちょうど順番が逆で、「メディア越しの体験」(スケッチ)のあと、「リアルに体験」(訪問)します。既にGoogleストリートビュー上を散歩していたので、頭の中に、大まかな街のイメージ、それも空から見た地図というより、Googleカーが搭載しているカメラ越しの散歩の風景が、脳内にインプットされています。この「やや深めの既視感」に、僕は強い興味を持ちました。Googleストリートビューをもとに自分が描いた場所は、自分だけのとても大切な場所です。スケッチブックを持って出かける旅は、セルフメイドの「聖地巡礼」なのです。

僕は「まず描いてから旅に出る」という、新しい旅の提案として、この旅を「先畫再去」と呼ぶことにしました。そしてこれを台湾のスケッチ仲間たちに紹介すべく、2023年の夏に、故郷に近い栃木県と群馬県にまたがる「日光例幣使街道」と呼ばれる旧街道をテーマに「先畫再去」を実践しました。まず、この旧街道沿いにかつて存在した18カ所の宿場町(鹿沼宿から倉賀野宿まで倉賀野宿まで)を、Googleストリートビューを見ながら、スケッチしました。そして、描き終えた18枚のスケッチをスキャンして、フォトブックを注文しました。これは、撮影した写真をはがき大の冊子に製本してくれるサービスです。このフォトブックを持ち、自家用車に折り畳み自転車を積んで、夏休みに3日間かけて、すべての場所を訪問しました。それぞれの地点では、もちろん「りかんさん」のパペットと一緒に写真撮影するとともに、当地を訪問した証、例えば、近所の鉄道駅や道の駅のスタンプを押したり、地域の郵便局オリジナルの「風景印」と呼ばれる消印を押してもらったり、街道沿いで古くから伝わる当地ゆかりの和菓子を買ってそれを宿でスケッチするなどしながら、フォトブック上に記憶と記録を描き足しました。

そしてその旅は、僕ひとりの旅ではありません。Googleをもとに描いた旧街道のスケッチは、完成する都度「Google街景之友」で共有してきました。そして海の向こうの大勢の友達も一緒にその場所のスケッチをしていました。この「#先畫再去!」の試みは、彼らの思いも一緒に背負って、あたかもみんなで訪問しているような旅でもありました。

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これから僕は、やってみたいことがあります。それは「#先畫再去!」の台湾環島を達成することです。環島とは、徒歩、自転車、バイク、車、鉄道などで、台湾を一周する旅のことで、多くの台湾人にとって、一生に一度はやってみたい旅と言われています。台湾は自転車大国と言われていて、環島のための自転車道もきれいに整備されているそうです。台湾の小さな街々をGoogleでまず楽しんで、街なかのスケッチを描く。そして描いた「畫(絵)」を持って、自転車でゆっくり時間をかけて、街々の微風を感じながら旅ができたら、と思っています。
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以上が、「台湾畫友とGoogleストリートビューを彷徨った話」です。奇しくもコロナ禍で、僕は海外に一歩も出ずに、人生で一番インターナショナルな経験をしました。唯一無二の経験、新しいコミュニケーション、そのエピソードを紹介できたことを大変喜ばしく思います。
そして僕の旅はこれからも、まだまだ続きそうです。(完)
*先畫=先画
(写真・スケッチはすべて筆者より提供。冒頭は基隆正濱漁港にて、描いたスケッチとともに記念撮影。ピースサインをしているのが筆者)
]]>まず「空間」について、Googleストリートビューは、いわばドラえもんの「どこでもドア」のように、瞬時にして世界のあらゆる場所に連れて行ってくれます。スケッチを描く場合、例えば、以下のような絵のモチーフが考えられます。
・歴史的建造物、神社仏閣、教会、都市のランドマーク
・商店・飲食店、市場や商業施設、一般の住宅
・商店街、街道沿い、看板、街の植栽
・道路や橋などの交通系インフラ、電柱、鉄道駅、港(漁港、軍港、造船所)
・乗り物(自動車、電車、船、バイクなど)
・自然(山、川)
・街の人や動物
少し応用的な使い方として、Googleカーが橋梁や首都高の上から撮影した街の光景は、普段の生活よりも高い目線から、広角的に街全体を見渡すことができます。Googleストリートビューを用いることで、ダイナミックな鳥瞰図的に街の景色を描くことも可能です。実際の高速道路上では、もちろん車から降りて絵を描くことはできませんし、通常の街並みを「現場で」描こうとする場合でも、車や人々の通行、商売の妨げにならないような「自分の居場所」を確保する工夫が必要です。その点、Googleストリートビューのスケッチは、パソコンやスマホがあれば、ロケハンから作品の完成まで、どこででも行うことができます.
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ふたつめの特徴として、「時間」を過去にさかのぼることが可能です。かつてクアラルンプールの高速道路のGoogleストリートビュー上で、「ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)」の大きな看板を見つけたことがあります。その看板がよく見える場所から、Googleストリートビューの「時間」をずらして見ると、時期(キャンペーン)ごとに広告が張り替えられていることがわかります。いわば、定点観測を楽しむことができます。僕は通常、Googleストリートビューで、描きたい「場所」を見つけると、次に「時間」をさかのぼります。屋根にカメラを搭載したGoogleカーの記録頻度が高い都市ほど、同じ地点で複数の時点の光景を確認することができます。その中から、天候や明るさ、光の差し込みや影の具合、人や車などの配置、季節を彩る花や葉の色づき具合、その他「偶然の面白味」などを確認して、最も描きたいシーンを決定しています。時間をさかのぼることで、すでに取り壊されてしまった過去の建物にもアクセス可能です。
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さらに、「共有」が容易なこともGoogleスケッチならではだと思います。僕が参加しているFacebookグループ「Google街景之友」では、3か月に一度、週末3泊4日(金曜日の朝から月曜日の深夜まで)のオンラインスケッチツアー(Google街友線上畫聚)が催されます。これまで、ベネチア、ニューヨーク、札幌、ブエノスアイレスなどのスケッチ旅に参加しました。終わるころには、毎回、全体で数百枚もの絵が集まります。
もしもこれがリアルの団体旅行の場合であれば、大勢で一斉に移動する必要があります。団体行動には、ある種の制約(窮屈さ)も伴いますが、Googleストリートビューを用いた「団体旅行」は、都市の魅力を発掘して、常にシェアしあいながら、リラックスしておしゃべり(チャットや書き込み)をしながらスケッチをして、絵を共有することができます。何よりお金がかかりません。現地での行動も、合流も、途中参加も、途中「帰国」も、すべて自由です。
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このように、空間、時間を自由に行き来しながら、場所や作品を共有しています。これまでGoogleストリートビューを彷徨ってきた中で、僕自身は、とりわけ、原点である「台湾の路上観察」が好きです。
以前、台中市内にある〈東海別墅夜市〉について、グループの仲間に紹介したことがあります。台湾の夜市は屋台や飲食店が集積する場所で、多くの台湾人にとって生活の一部となっています。とりわけ、〈東海別墅夜市〉は、東海大學(Tunghai University)に隣接する学生街でもあり、かつてこのエリアで実際に学生時代を送ったという友達もいます。「木瓜牛奶(パパイヤミルク)」「鶏排(フライドチキン)」「紅豆餅(今川焼のようなもの)」などの無数の看板、空を見上げれば四方八方に張り巡らされた電線、スクーターに乗って行きかう人々。僕がその、「台湾っぽい」と感じる光景をグループに紹介した際、ある友達は「外國人看本國街景的角度真的很不一樣」(外国人は自国の街並みを全く異なる視点から見る)とコメントしていました。
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最近探した、同じく台中市の大肚区にある〈台湾鉄道追分駅の入口〉のストリートシーンも、いわば「台湾っぽさ」のようなものがギュッと凝縮しています。国道沿いに並べられた植木鉢は、すでに周りの雑草と区別がないほど生き生きと生息しています。古い家屋は半分取り壊され、レンガがむき出しになっています。駅の看板は少し年季がたっていて、アルファベットの文字がとれてしまっています。「我們住在台灣都沒發現這些美景!」(台湾に住んでいながらも、こういう美しい景色はなかなか発見できない!)といったコメントもありました。夜市や道端の盆栽などは、台湾の皆さんにとって、身近にありながらもつい見逃しがちな、「いかにも台湾っぽい美しい」場所なのかな、と思いました。(編集部注:冒頭のスケッチは台湾鉄道追分駅の入口)。
一方、僕がスケッチを始めたきっかけをくれたB6速寫男をはじめ、多くの友達が好んで描きたいシーンに、「日本のレトロ」があります。昭和の雰囲気の蔦の絡まる喫茶店、いわゆる「シャッター商店街」、赤地に白く切り抜かれた楕円の中に「たばこ」と書いてあるブリキの看板、レトロな駄菓子屋など、そうしたシーンを探しあてるのが、本当に皆さん上手です。Instagramや別のメディア経由で知った日本のストリートシーンについて、「この日本の場所を一緒に探してくれないか?」「この日本のドラマで出てきた店を探している」などと場所探しを頼まれることもたびたびあります。

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もうひとつ、Googleスケッチを始めたことにより、日々の行動で大きく変わったことがあります。ある梅雨の合間の日曜日、横須賀の「ドブ板通り」を(リアルで)散歩していたとき、カレー屋やハンバーガー屋が立ち並ぶ通りから、山側の路地のほうにふと目をやると、生活感の漂う光景が目に映りました。ブリキ調の赤い看板、車は通れそうもない細い急こう配の上り坂、上のほうには、青々とした林が鬱蒼と生い茂っていました。こういった、まさに「ここ!(絵に描きたい!)」と思えるような、ちょっと雰囲気のある光景に出くわすと、瞬時に「場所」と「像」を、スクリーンショットのように脳裏に焼き付ける癖がつきました。そして毎回、家に帰って、Googleストリートビューで再確認し、その場所と描いた作品をグループにシェアします。このように、リアルの生活のなかでも、無意識のうちにロケハンをしています。「バーチャル(Google)が主、リアル(現地)が従」とすら感じてしまうこともあります。最近では「あの場所は、リアルで訪問したのか、Googleストリートビューの光景だったのか…」と、混乱してしまうことすらあります。
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「風景画の誕生は近代以降」と言われています。約150年前、印象派の画家たちによって戸外で風景画が頻繁に描かれるようになりました。それ以前は、画家は外出先の風景を、簡単なデッサンでしか持ち帰ることができませんでした。これには、持ち運びのできる「絵の具のチューブ」の発明と、絵の具の大量供給が影響している、とも言われています。「色彩のMobility(可搬性)」が各段に向上したことが、一瞬をリアルでとらえ、光豊かな色彩表現を生むきっかけになりました。その後も、写真の登場が画家の創作活動にインスピレーションを与えたり、旅先の記録としてカメラや映写機が用いられるなど、「風景を切り取ること」は、様々な技術やメディアの発達とともに発展してきました。
――そして2020年代。Googleストリートビューを用いることで、場所と時間を超えた「台湾っぽさ」や「日本っぽさ」を少し違う視点から再発見して共有し、共感することができるようになりました。Googleスケッチは、今までになかった新しいコミュニケーションを生んだ、と思っています。「これも、ちょっとした、風景画の転換点だよなぁ」と思いながら、日々、台湾畫友とともに、Googleストリートビューの中を彷徨っています。(続く)
*畫友=画友
(写真・図はすべて筆者より提供。冒頭のスケッチは 台中市 追分駅近くhttps://maps.app.goo.gl/DYHbk7WdChzvy8s7A 。筆者のスケッチの作品集はfacebook.com/rikan.6e6636, instagram.com/rikan.6e6636で見ることができる。)
新型コロナウィルスは、社会に多くの影響を与え、僕たちの日常生活を一変させました。楽しみにしていたイベントは中止になり、行動制限、マスク生活など、悔しくて窮屈な思いも沢山経験しました。一方で、こうした制約は、新しい文化を生み出す原動力にもなります。
この3年間、僕は台湾人のスケッチ仲間(畫友)と毎日のように「旅」をしては、風景画(水彩画)を楽しんでいます。この「Google街景之友 (Google Street Sketchers)」 ――― Googleストリートビューを用いた新しい旅の提案 ――― と3年間の僕のあゆみについてご紹介したいと思います。
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新型コロナがない時代の最後の夏休み、僕は、娘と台南・台北を旅しました。台南駅前の書店で、一冊の水彩画スケッチの教則本と出会いました。万年筆と水彩絵の具を使った、淡いタッチの素敵な画風です。観ているだけで癒されます。もともと絵画には興味があったのですが、いつかこんな絵が描けるようになるといいなぁ、と思い、迷うことなく買いました。
そして1年後、2020年夏。コロナでオリンピックは延期になり、夏休みといってもどこにも行けず、時間も持て余しがちでした。iPadの中には、1年前に撮影した、台湾の街並みやグルメの写真が沢山あります。「そうだ、台湾の旅の写真を見ながらスケッチを描いて、1年前の台湾旅行を追体験してみよう」ということを思いつきました。
まずは1枚、写真の中から「ごく普通の集合住宅の門扉」を選んで、それを見ながらスケッチを完成させました。そのあと、Googleマップやストリートビューで、当時歩いたその場所を確認して、「地域/通」の名前を調べました。場所そのものは難なく見つけることができたのですが、僕はそれ以上のあるもの/ことを発見しました。今、僕が描き終えたばかりの門扉、その門前に描いたのと全く同じ青いスクーターが、Googleストリートビューの同じ場所にもぽつんと置かれていたのです。おそらく住人の誰かのものでしょう。1年前に歩いた街の記憶、iPadの写真の記録、今描き終えたスケッチ、そしてGoogleストリートビュー。僕はこの青いスクーターが、リアルとバーチャル、時間と空間を超えて、存在していることに、強い感動を覚えました。さらに「むしろ、Googleストリートビューを見ながら、風景画を描けばいいのでは?」と気づき、そこから、在宅での台北の"街歩き+スケッチ"が始まりました。

数日後、Facebook上に「あなたにおすすめのグループ―――『Google街景之友』」と表示されました。覗いてみると、スケッチ愛好家の台湾のFacebookグループのようです。東京・浅草、北海道・小樽、京都の伊根の舟屋など、台湾人にも人気の日本の景勝地が描かれた風景画がたくさん投稿されていました。かなり本格的な水彩画もあれば、気軽なスタイルのスケッチ、鉛筆だけで描かれたデッサン調の作品もあります。このグループは「Googleストリートビューを用いること。その画像を見ながら描いた作品と、GoogleストリートビューのURLをシェアすること。絵のスタイルは自由」というシンプルなルールで運用されています。
Googleでスケッチ。これはまさにその時、自分が渇望していたことでした。あとでわかったことですが、台湾には、街中でスケッチを楽しむコミュニティが各都市に存在し、これまでも人々は緩やかに繋がっていました。しかし、コロナ禍で外出ができなくなってしまったことをうけ、GoogleとFacebookを用いたバーチャルスケッチを楽しむためのグループが、スケッチ愛好家有志により公開グループとしてスタート。そしてグループのキーマンのひとりは、他でもない1年前に僕が台湾で購入した水彩画の教本の著者「B6速寫男 」だったのです。
僕はワクワクそして緊張しながら、東京から単身、「Google街景之友」の門を叩きました。そして意を決して台北の日常風景(虎林街)のスケッチを投稿してみることにしました。台湾の皆さんは、僕が思っていた以上に親日家で、この見ず知らずの日本人の参加を大歓迎してくださいました。中文や英語で「初投稿おめでとう!」「ようこそコミュニティへ!」「こっちのエリアにもいい場所があるよ」。中には「日本の友達の参加がとても嬉しいです」と日本語でコメントをくださる方もいました。
最初の投稿から数日後、もうひとつ、このグループならではの醍醐味を味わうことになります。僕がシェアした虎林街(GoogleのURL)をもとに、自身の描いたスケッチを投稿してくれる方が現れたのです。なるほど、これならステイホーム期間中でも、みんなで同じ場所のスケッチを楽しむことができます。

その後、台北市内のみならず、自分の住んでいる東京・三軒茶屋(世田谷線沿線、松陰神社の商店街、豪徳寺の招き猫、ゴリラビルなど)や、自分の故郷(栃木県栃木市)の風景を、スケッチとともに紹介しました。「みんなで一緒に描きませんか?」と誘えば、皆喜んで、自分のスタイルでスケッチを描いて投稿します。最近では、東大駒場キャンパスの裏にある「フレッシュネスバーガー富ヶ谷店(1号店)」を紹介したところ、沢山の友達がスケッチを描いてくれました(このような、僕らのなかのちょっとした"名所"が、世界中あちこちにあります)。
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こうして、僕は、Googleスケッチという"沼"にハマっていきました。「打てば響く」関係を通じて、コロナ禍にもかかわらず、そしてコロナ禍だったからこそ、数百人もの台湾人畫友ができました。今も「Google街景之友」の参加者は増え続けています(68,401人(2023年9月4日現在))。台湾人の皆さんと一緒に、今日も僕は、スケッチを楽しんでいます。(続く)
*畫友=画友
(写真・図はすべて筆者より提供。冒頭のスケッチは「Google街景之友」に初投稿した作品。筆者のスケッチの作品集はfacebook.com/rikan.6e6636, instagram.com/rikan.6e6636で見ることができる。)


